自閉症のコミュニケーション特性を言語・非言語・相互性の3側面で示す整理図

はじめに:「話せない」と「話さない」は、違います

放課後等デイサービスの教室で、家ではよく話すのに教室では一言も出てこない子に出会うことがあります。あるいは、言葉は流暢なのに、会話のやりとりがどこか噛み合わない子。自閉スペクトラム症(ASD)のあるお子さんのコミュニケーションは、こうした「見えにくい難しさ」を含んでいます。

この記事は、放課後等デイサービスの現場スタッフとオーナーの方に向けて、ASDのコミュニケーション特性をどう捉え、現場でどう支援していくのかという基本を整理します。専門用語を並べるのではなく、明日の関わりに使える見立ての地図をお渡しすることを目指します。

解説まんが『「話せない」と「話さない」は、違います』。教室で言葉が出にくい子が、言語・非言語・相互性の整理とトレーニングの入口を経て、現実への橋渡しを考える4コマ

自閉症のコミュニケーションに見られる特性

ASDのコミュニケーション特性は、大きく3つの側面から捉えると整理しやすくなります。

ひとつ目は言語面です。言葉を字義通りに受け取りやすく、比喩や冗談、遠回しな言い方が伝わりにくいことがあります。一方で、関心のあるテーマについては一方的に話し続ける、という形で現れることもあります。

ふたつ目は非言語面です。表情、視線、声のトーン、距離の取り方といった「言葉にならない情報」の読み取りや発信に難しさが出やすい。相手の「もう終わりにしたい」というサインに気づきにくい、といったことが起こります。

みっつ目は相互性です。会話は本来、ボールを投げ合うようなやりとりですが、その往復のリズムや、場の暗黙のルールをつかむことに負荷がかかります。

重要なのは、これらの現れ方には大きな幅があるということです。同じASDでも、一人ひとり姿は異なります。「ASDだからこう」と決めつけず、目の前の子がどの側面でつまずいているのかを具体的に見る。ここが支援の出発点です。

「話せない」のか「話さない」のか

「外では話せない」という姿の背景には、いくつかの可能性があります。言葉を獲得する過程にある場合もあれば、不安や緊張から特定の場面で話せなくなる選択性緘黙のような状態が重なっている場合もあります。

ここで現場が気をつけたいのは、話さないことを「やる気のなさ」と読み違えないことです。話せないのか、話さないのか、話したいけれど出てこないのか。同じ「沈黙」でも背景はまるで違います。無理に発話を促すよりも、まず安心できる場と、言葉以外で参加できる入口を用意することが、結果的に近道になることが少なくありません。

支援の基本方針:本人主体・構造化・予測可能性

ASDのコミュニケーション支援には、現場で共有しておきたい3つの方針があります。

本人主体であること。 支援の中心は、あくまで子ども本人です。大人が答えを誘導してしまう関わりは、たとえ良かれと思っても本人の発信を奪います。発信したのが本人なのか支援者なのかが曖昧になる手法には、専門団体から慎重な見方が示されています。誰が伝えたのかが本人に帰属する形を保つことが、支援の前提です。

構造化と視覚的な手がかり。 何を、いつ、どこまでやるのかが見える形になっていると、ASDのある子は安心して取り組めます。口頭だけの指示より、見て分かる手がかりが有効なことが多いのです。

予測可能性を高めること。 次に何が起きるか分かる場面は、対人の負荷を大きく下げます。逆に、予測できない展開はそれだけで不安の源になります。

トレーニングへの関与が必ずしも人への般化につながらないことを示す比較フロー図

なぜ「トレーニング」が入口になりうるのか

対面の会話は、視線の圧、即時応答の要求、暗黙のルールの読み取りが同時にかかる、負荷の高い場面です。ASDのある子にとっては、いきなり挑むには重い。

そこで、人より予測しやすく、圧の低い「トレーニング」を一枚はさむ、という考え方があります。アバタースクールの監修資料では、「ぬいぐるみとならお話できる子がいます。アバターとなら、できる子がいます」と説明されています。動物のアバターになりきってなら、あいさつや順番待ちに手が届く子がいる、という発想です。

この考え方は、研究の世界とも地続きです。予測しやすい媒体を介して感情の理解を学ぶ取り組みや、遊びを通じて共同注意やコミュニケーションを育てる介入には、一定の知見が積み重なっています。ただし、慎重に読むべき点もあります。トレーニングへの関与が高まっても、それが自動的に現実の人間関係へ移るとは限らないのです。トレーニングの中だけで終わっては、いくらトレーニングを多くしても実際の生活では使えません。

だからこそ「トレーニングは即実現することではない」という前提に立ち、最初から現実場面への橋渡しを設計しておくことが欠かせません。トレーニングは入口であって、終着点ではない――この一点を外さなければ、トレーニングは強い味方になります。

整理表:ASDの特性と現場での支援対応

コミュニケーション特性 現場で見られる姿 支援の方向
言葉を字義通りに受け取る 冗談や遠回しが通じない 具体的・明確に伝える。曖昧表現を避ける
非言語的な表現やサインが読み取りにくい 相手のサインに気づきにくい 表情や合図を言葉とセットで示す
相互性に負荷 会話の往復が続きにくい 役割や順番のある遊びで往復を経験
予測できない場面が苦手 急な変更で不安定に 見通しを先に示す。構造化する
選択性緘黙が重なる 特定の場で話せない 言葉以外の参加の入口を用意し、安心を優先

放課後等デイサービスという場の強み

これらの支援は、集団と遊びのある場でこそ生きてきます。

令和6年7月に改訂された放課後等デイサービスガイドラインは、本人支援を5領域――健康・生活/運動・感覚/認知・行動/言語・コミュニケーション/人間関係・社会性――の視点で捉えるよう求めています。コミュニケーション支援は、このうち「言語・コミュニケーション」と「人間関係・社会性」に直接かかわります。そして、これらの領域は集団で取り組むことで効果が得やすい。放課後等デイサービスは、その条件をもともと備えた場なのです。

アバタースクールは、この2領域に焦点を当てて放課後等デイサービス向けに設計されたコミュニケーション療育ゲームです。動物のアバターになりきり、予測可能なルールのある遊びのなかで、あいさつ・順番・負けの受け入れを練習します。最大8人を先生1人で、手持ちのテレビで。構造化と予測可能性という支援の方針が、ゲームの設計そのものに組み込まれています。

アバタースクールの考え方:支援の「出口」を先に描く

アバタースクールが大切にしているのは、入口より先に出口を決めるという順番です。

ウェブマーケティングでは、集客の前に「何を誰にどう届けるか」という意味を定義します。療育に置き換えれば、ツールや手法を入れる前に「この練習を、最終的にどんな現実の場面につなげたいのか」を決める、ということです。

「アバターでお友だちにあいさつできた」を、「朝の会で実際にあいさつできる」「家族にただいまと言える」へつなぐ。その到達点を先に描き、なりきり→集団→現実と段階を設計する。出口のない支援は、せっかくの「できた」をトレーニングの中に閉じ込めてしまいます。支援の価値は、現実の生活がどれだけ動いたかで測られるべきです。

よくある質問(FAQ)

Q. 自閉症の子は、コミュニケーションが苦手と一括りにしてよいですか。

いいえ。特性の現れ方には大きな幅があります。言語・非言語・相互性のどこに、どの程度つまずいているかは一人ひとり異なります。個別に見立てることが前提です。

Q. 家では話すのに教室で話さないのは、なぜですか。

安心できる環境である家庭では話すことができても、安心できない、不安を伴う学校などの環境では話すことができなくなります。アバターを使って緊張を和らげる方法を提案しています

Q. 支援者が言葉を代わりに出してあげるのは良いことですか。

発信が本人に帰属する形を保つことが大切です。誰が伝えたのか曖昧になる関わりには、専門団体から慎重な見方が示されています。本人主体を崩さない支援を心がけてください。

Q. アバターやぬいぐるみを使えば、人とも話せるようになりますか。

効果には個人差があり、保証するものではありません。トレーニングは対人の負荷を下げる入口になりうる一方、現実場面への般化には橋渡しの設計が必要です。

Q. 厚生労働省の5領域とは何ですか。

本人支援を捉える5つの視点で、健康・生活/運動・感覚/認知・行動/言語・コミュニケーション/人間関係・社会性を指します。コミュニケーション支援は後者2領域に深く関わります。

まとめ

ASDのあるお子さんのコミュニケーションは、言語・非言語・相互性という3側面で捉えると見立てやすくなります。支援の鍵は、本人主体・構造化・予測可能性。そして対面の負荷が高いときは、予測しやすいトレーニングを一枚はさむのも有効な発想です。

ただし、トレーニングはあくまで入口。現実につなげる出口を先に描いておくことが、支援を「できた」で終わらせないための条件です。

療育のなかでコミュニケーションをどう伸ばし、「とれる」状態へどう近づけるかは、続く実践編で詳しく扱います。

アバタースクールという選択肢

アバタースクールは、放課後等デイサービスの現場とオーナーの双方に向けて開発されました。

現場スタッフの方には、準備の負担がありません。先生1人で最大8人、お題を出してみんなで遊ぶだけ。構造化され、予測可能なルールのある遊びが、そのままコミュニケーションの練習になります。

オーナー・開設者の方には、5領域のうちコミュニケーションの2領域に正面から取り組める点が意味を持ちます。支援内容の説明材料としても活用でき、子どもが「また行きたい」と感じる活動は通所の継続につながります。監修は小児科医の平岩幹男先生。レンタルで導入できます。

まずは資料と紹介動画で、教室での使われ方をご覧ください。導入のご検討には、無料トライアルや30分の導入相談も承っています。

参考文献

平岩幹男:小中学生のライフスキルトレーニング 合同出版 2022

こども家庭庁. "放課後等デイサービスガイドライン(令和6年7月)". こども家庭庁. 2024-07. https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/, (参照 2026-06-15).